市原・山口動物病院 症例

外科系
種名:ミニチュアダックスフント 
年齢:8才  
症例:胆嚢粘液嚢腫

検査

今回紹介するのは「胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)」という病気です。なんだか難解な字面ですね。
胆のうは、消化液の一種である胆汁を貯めておく、ふくろ状の臓器です。肝臓に埋もれるようにして位置しており、十二指腸につながっています。肝臓で作られた胆汁は一度胆のうに入れられ、ゴハンを食べたときに十二指腸に排出されています。
胆嚢粘液嚢腫は、この胆のうの中で胆汁がゼリー状に固まってしまう病気です。バイ菌のせいだとか、胆のうが出すネバネバ成分が多すぎるせいだとか言われていますが、正確な原因は今のところわかっていません。では、どんな病気なのか、実際の症例を見ていきましょう。
症例は、ミニチュアダックスフントのレンくん。8歳の男の子です。

夜中にゴハンを吐き戻し、胃が空っぽになった後も夜通し胃液を吐き続けたとのこと。前日までは食欲も元気もあったのに、突然具合が悪くなってしまったようです。病院に来たときはひとまず嘔吐は落ち着いているようでしたが、お腹に力をいれて背中を丸め、いかにも「きもちわる~い…おなかいた~い…」といった風情でした。
血液検査では白血球とCRP、そして肝酵素(GPT、ALP、GGT、GOT)が高値を示していました。とくにCRPは機械で数値が出せないほどの高値で、強い炎症や感染が疑われました。
続いて画像検査です。エコーの検査を実施したところ、図のような所見が得られました。
肝臓に埋もれるようにしてある袋状の臓器…胆のうです。が、パッと見るとどこがそうなのかわからないくらい、中身がつまっています。胆嚢粘液嚢腫の診断は、このエコーの画像が決め手になります。
薬による治療もありますが、胆嚢粘液嚢腫の治療は基本的には手術です。胆のうはあくまで、消化液を一時貯蔵するためのただの袋なので、取ってしまっても大丈夫なのです。
レンくんの飼い主さんは、薬による治療を選択されました。来院時には嘔吐は落ち着いていたし、胆のうの病気に典型的な症状である黄疸も出ていないため、むやみにお腹を切らず、まずは薬で良くなるか試したいということでした。

治療

さて、入院してお薬と点滴で治療を始めたレン君。残念ながら2日後、黄疸が出てきてしまいました。
目の方は写真だとよく分からないですが…実際にはパッと見てわかるほど黄色でした。お腹はおしっこがついて黄色くなっています。普通はこんなに濃い黄色ではないですね。この時黄疸の数値であるビリルビンの値は8.1。正常値は0.5までです。
黄疸の有無は手術の成否に大きく影響します。できれば黄疸がない時に手術をしたい…。そこでもう2.3日内科治療で様子を見ることにしました。急性の黄疸は数日で落ち着くことも多いのです。

ですが、残念ながらその後もビリルビンの値は上がり続け、2日後には24.9にまで上がってしまいました。さすがにこれ以上は静観できません!半ば緊急的に手術となりました。
周りに脂肪などがたくさんくっついていますね…もしかしたら胆のうはすでに破れてしまっていたのかもしれません。だとするとレン君はとてもラッキーです。胆のうが破れると、最悪の場合、胆汁が腹腔内に漏れ出すことで重度の腹膜炎を起こします。一気に具合が悪くなって急死…なんてことも珍しくないのです。

無事に取れました!右の写真が取った胆のうと、その中身です。まるでかりんとうのように固まった胆汁が出てきました。内部を開くと…ドロドロです。ゼリーの中にかりんとうが浮かんだような状態でしょう。詰まってしまって胆汁がうまく排出できなかったんですね。
その後はどんどん体調が良くなり、ごはんも良く食べ1週間後には退院となりました。そして退院からさらに1週間後…傷のチェックと、いよいよ抜糸の日です。
傷の大きさからも、手術の負担がわかりますね…。ですがとっても元気な姿を見せてくれました(おかげで写真はブレブレだよレン君!)。

傷も良好なためこの日に抜糸、治療はひと段落となりました。肝臓の炎症が軽く残っていること、また胆汁をスムーズに流すためにお薬は続けてもらっていますが、もう大丈夫でしょう!!

コメント

さて、レン君は無事に治りましたが、みんながみんなうまくいくわけではありません。胆嚢粘液嚢腫の怖い所は、「元気だったのに突然症状が出る、しかも致死的なほど強烈」という事です。はじけたが最期の、まさにお腹に抱えた爆弾です!また、症状、特に黄疸が出ていると、手術の成功率がすごく落ちるのです。レン君の治療もかなり綱渡りだったと言えます。
胆嚢粘液嚢腫、そしてその前段階と言える胆泥症は、犬では比較的ありふれた病気です。しかし、見つけるのが早ければ、薬で改善させることも、万全の体調で手術をやってしまうこともできます。特に具合が悪くなくても、中年を過ぎたら定期的な血液検査、異常があればエコーの検査も受けて、早期発見につとめましょう!